2025/09/23 15:00
愛知県岡崎市、徳川家康御生誕の地、そして昔は栄華を極め、今はのどかになったと言われる商店街の一角にあるコーヒースタンド「Coffee.TO.______」。そこに、JBrC(ジャパンブリューワーズカップ)2017 優勝(要するに日本チャンピオン)、WBrC(ワールドブリューワーズカップ)2018 世界第5位のバリスタ/ブリューワーが所属すると聞いたら、このタイトルの価値を知る人の頭の中には「上山くん、どうして愛知県の無名なお店に?」と思う方がほとんどでしょう…。今回は、そんな疑問にお答えできることを心がけて、Coffee.TO.______の伊藤菜衣子(クリエイティブディレクター)、三村裕毅(工業エンジニア)、上山薫(バリスタ/ロースター/JBrC2017 優勝、WBrC2018 第5位)の3人でおしゃべりしました。何を見据えて、上山が合流し、このチームに至ったのか、つまびらかにしていこうと思います。 三村: そもそも僕たちは幼馴染で、部活もソフトテニスで、同じだったんだよね。大学生になってからも連絡は取ってて、自分が当時働いていたバイトを辞める時に、上山に入ってもらったんだよね。 上山: そのバイトが、僕にとってはコーヒー沼にハマったきっかけだよね。 伊藤: 何年か前に3人で食事をする機会があって、まるで小学生のようなテンションで(ポケモンの話でもするように)、スペシャルティコーヒーの情報共有をしてたんですよ。大人になって、こんな無邪気にキャッキャできちゃう2人ってレアだな、と。そして、何気なく「いつか一緒にやったらいいのに」って口に出したら、2人とも「え?!」って顔してから、そんな選択肢あるの?みたいなリアクションだったよね。あれはどういう感情だったの? 上山: 三村はなんでもひとりでできちゃう人だから、誰かと一緒にはやらないと思ってたんだよね。 三村: はははは(笑)。僕は、大学院を卒業して、すぐにコーヒー屋をやっていたら、ひとりでやったと思う。だけど、大きな会社でエンジニアとして働いてよくわかったけど、現状を良くするには、チームでやる方がより良くなるって痛感したんだよね。僕も、上山は、自分のお店を持ちたいんだと思ってたよ。 上山: コーヒーを始めたころは「自分の店を持ちたい」という気持ちはたしかにあったね。でも、競技会に出る時に、色々な人に助けられたり、協力してコーヒーを作り出したりするうちに、「チームでやったほうが楽しいな」と思うようになっていったかな。 伊藤: うんうん。「早く行きたければ一人で行け、遠くへ行きたければみんなで行け」っていうアフリカのことわざがあるよね。2人が会っていない間に、チームの可能性を感じる経験がそれぞれにあったってことだね。 伊藤: 上山くんは、あちこちから誘いがあったそうだけど、どうしてCoffee.TO.______に来てくれたの? 上山: 気心知れた安心感と、このチームだと僕が想像しないようなこともできそうだな、っていう好奇心だよね。三村は、昔からどんなことでも僕のずっと先を行っていて、スペシャルティコーヒー業界だって10年以上離れていたのに、本当に情報が新しい。昔からどうしてるの? 三村: 学生でコーヒー屋で働いていたころは、英語が喋れる暇な学生っていうポジションだったから、東京に来るバリスタの世界大会の関係者とかヘッドジャッジとかをアテンドをしてたこともあって、あちこち出入りしてたよね。あとは、ちょうどTwitter(現 X)とかが始まったころでもあったから、国内外のコーヒーパーソンと直接やりとりできる時代になった。 伊藤: 懐かしいね。今のSNSとはちょっと空気感が違って、みんないい意味でおせっかいでオープンマインドで親切だったよね。 三村: そうそう。あと、スペシャルティコーヒーから離れてからも、サブスクで海外のロースターから豆を買ってて、動向くらいはチェックしてたよ。日本のロースターは、ちゃんとしてるからさ「アリかなー?ナシかもなー?」みたいなチャレンジングな豆は送ってこない。だから、動向を探るにはタイムラグが2〜3年あるんだよね。 上山: なるほどね。 三村: 工業エンジニアとしては、エンジニアとして工場の製造ラインの計画とかしてることもあって、今後は様々な工場とか視察に行って、もっといろんな展開を考えたり、実行していきたいよね。 伊藤: あとは、2人の得意を持ち寄って、上山くんが今後も大会に出場するなら、三村が抽出器具とか、作ったらいいと思ってる。 上山: それは楽しみだな。日本の選手で器具とかカップとかつくれるところはほぼないからね。 伊藤: あと、スペシャルティコーヒー関係者へのインタビュー本もずっとつくりたいと思ってる。スペシャルティコーヒー業界のアーカイブがあまりなくて、口頭伝承がメインなのが気になってる。これは、私の職業病ですかね。 三村: スペシャルティコーヒーの黎明期から20年くらい関わってきて、関係者の当初の姿勢と、現在の姿勢の変化もそのあたりに一因があるのではと僕も思ってる。情報が継承されていないんだよね。だから温故知新をしたいよね。 上山: そうだね。昔からいる人しか知らない情報って多いと思う。 伊藤: 継続的にスペシャルティコーヒーのシーンで活躍してきた上山くんがいてくれることで、「お前誰や?」感がなくなるってのも、いろいろ活動する上で、ありがたいな、という下心はあります(笑)。 三村: あとは僕は、おいしいスペシャルティコーヒーへのアクセスビリティの低さを、とにかく変えていきたい。缶コーヒーとかもね。そのために、大企業で、大量生産と品質について、試行錯誤をしてきたから。そういうときには、マスに向かってスペシャルティコーヒーをつくってきた上山くんの経験に少し寄せたり、なんてこともできるよね。 伊藤: どうプロモーションしていくかの指針もマスへの視点とスペシャルティコーヒーへのこだわりのバランスを見ながら作れるしね。まず、おいしいコーヒーをつくること、そして、常に変わらぬ品質で届けること、もっとみんなに知ってもらうこと。このチームだと、それがスムーズにできるよね。 伊藤: と、ここまでは、新しくできることの話だったけど、なんといっても日々の営業の面白さも、探求できたらいいよね。こだわりがぎゅっと詰まっているのに、たった数百円で飲めるスペシャルティコーヒー。老若男女でスペシャルティコーヒーを囲む風景。カフェインで頭が冴えてしまう井戸端会議。このロマンチックなコーヒースタンドの営みの魅力ってあるよね。 三村: コーヒーは、けっこう平等なんだよね。数百円だし、サクッと行けるし。 伊藤: 子連れでワンオペで星付きのレストランに行くことは不可能だけど、コーヒースタンドには行けるもんね。それは、自分がその身になって、ありがたい場所であり、飲み物だなぁ、と感じたなぁ。 三村: そういう体験をもっとしてほしいなぁ、と思って、うちのお店は、子どものベビチーノがサービスにしたんだよね。かみるんは日常のコーヒーをどう思ってるの? 上山: 競技会のために、たくさん特別なコーヒーを淹れてきたけど、日常のコーヒーの魅力はすごくあるんだよね。ホッとする。 伊藤: スペシャルティコーヒーの豆が高騰して、もうスペシャルティコーヒーは日常の飲み物ではなくなるという話も聞くけれど、そこはどう考えてるの? 三村: 0.01秒、0.01円をどう削るかという努力を、僕はこの10年以上、工業エンジニアとしてやってきたから、まだまだこのスペシャルティコーヒー業界には余地がたくさんあると思ってる。だから僕たちは、あえて日常のスペシャルティコーヒーをやりたいよね。 上山: スペシャルティコーヒーを特別にしちゃったら、みんなで楽しめないからね。裾の尾を広げて、業界の未来に繋げたいしね。 三村: 僕は、ポールバセットとシアトルのネプチューンコーヒーで、オーストラリアとアメリカの西海岸のコーヒーで、上山は、UCC、丸山珈琲という、日本のメジャーなところを知っていて、大会では世界のスペシャルティコーヒーのトレンドに合わせて味をつくってきてる。 上山: あらためて並べてみると、全然違うことやってきたよね。今、一緒にカップ取ったりして、僕と三村の味のチューニングをしていて、それぞれの大事なところを両立させたり、取捨選択して、つくっていこうとしているところ。 伊藤: 上山くんは、よく「こんな浅くてお客さんは大丈夫かな?」って心配をしてくれるけど、何度でも言いたい。「自分たちが心から飲みたいものを素直に作ってよ!」それを、マーケットに理解を促したり、ムードを変えていくのはクリエイティブの役割だから。 上山: 頼もしい。 伊藤: 今、私もお店に立てる環境があって、お客さんのリアクションを肌身に感じられて、それでクリエイティブで解決できるってのを、リアルタイムに、縦割りじゃなくてシームレスにできるのは、おもしろい機会だと思ってる。 伊藤: このチームで、方々に必死にやって、ダメだったらその時、また考えよう!坂本龍一さんとソーシャルメディアの実験をしていたときの合言葉だけど「走りながら考える」でね。私たちは、真新しい風景がみたいのだから!
左から; 三村 裕毅(工業エンジニア) 伊藤 菜衣子(クリエイティブディレクター/暮らしかた冒険家) 様々なプロジェクトにおいて、コンセプトワーク、ウェブ制作、人的ネットワーク構築などのひとつの役割に留まらない柔軟なクリエイティブスタイルが特徴。坂本龍一のソーシャルメディアの実験や、「100万人のキャンドルナイト」など様々なムーブメントなどに参加。活動やアウトプットは多岐にわたるが、全ては「誰もが心豊かに暮らせる社会」をつくることに集約される。スペシャルティコーヒーとの関わりは、2012年から、コーヒーショップのウェブブランディングに参画。2021年4月Coffee.TO.______を立ち上げ。主な担当は、店舗設計、DIY、ブランディング、リクルーティング、マニュアル作成など。 上山 薫(バリスタ/ロースター)チームでやる、という可能性
このチームだからできること;
①産地、生産、店舗…
海外の情報がとにかく早い②抽出器具、書籍…
自前でつくれるモノが多い③味づくり、生産体制づくり、広告づくり…
マスにむけて量産もできる圧倒的な経験値コーヒースタンドというロマンチックな営みも
もっとたのしみたい俺たちが心から飲みたいスペシャルティコーヒーを
まっすぐ、みんなに届けよう!
学生時代の2006年から東京とシアトルのコーヒーショップでアルバイトやインターンを経験。「美味しいコーヒーをもっと多くの人に届けたい」という想いから、生産効率や組織運営への関心を持ち、ファーストキャリアに工業エンジニアを選択。現在は兼業で、Coffee.TO.______に参加。主な担当は、品質管理(QC)、経営。
JBrC(ジャパン ブリューワーズ カップ)2017 優勝、WBrC(ワールドブリューワーズカップ)2018 第5位。ユーシーシーフードサービスシステムズ株式会社、株式会社丸山珈琲を経て、Coffee.TO.______に参加。主な担当は、焙煎、抽出、トレーニング、商品開発。